2023.05.29

お知らせ

令和5年度のニホンライチョウの繁殖の取り組みについて

1.趣  旨  当園における令和5年度のニホンライチョウの繁殖の取り組みについて以下のとおりご案内します。

2.目  標  当園では、国のライチョウ保護増殖事業計画に基づいて、ライチョウの繁殖技術の確立を目指し、飼育下繁殖に取り組んでいます。

令和5年度は、

①野生復帰を想定した野生型腸内細菌の腸管内定着

②照明時間のプログラムによる産卵時期のコントロール

を目指した取り組みを行っています。

3.繁殖に取り組んでいる個体

       メス 血統登録番号N70(2019.7. 3当園で孵化)

       オス 血統登録番号N41(2017.7.13当園で孵化)

4.これまでの経緯

日にちメス(N70)オス(N41)
1月20日見合いを開始
3月15日同居を開始(2時間程度)
5月 7日交尾を確認 (以降24日まで、8日、9日、12日、13日、14日、15日、16日、18日、20日、22日、23日に交尾を確認する)
5月15日1卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 
5月17日2卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 
5月19日3卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 
5月21日4卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 
5月22日5卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 
5月24日6卵目産卵(人工孵卵による孵化のため、擬卵と交換して貯卵) 夕方より抱卵開始(擬卵) 
5月25日同居を終了
5月27日7卵目を確認(抱卵中なのでそのまま) 
5月29日今まで産卵した中から大きさや重さを比較して良好な卵5個を孵卵器に入れ人工孵卵を開始(7卵目の卵も擬卵と交換して孵卵器に入れる)

5.今後について

   順調に進めば、6月21日ごろに孵化する予定です。その後は、人工育雛を行い、野生型腸内細菌粉末と高山植物などを与え、この野生型の腸内細菌の定着を目指していきます。

6.取り組みの意義

① 野生復帰を想定した野生型腸内細菌の腸管内定着について

野生のライチョウは、毒素を含む高山植物を食べても消化吸収することができる腸内細菌叢を持っています。また、孵化したヒナは、細菌を含む親の糞とその細菌の栄養源となる高山植物を食べ、親鳥の持つ腸内細菌を取り入れ定着させることが分かっています。

しかし、現在動物園で飼育しているライチョウは、野生のライチョウが産んだ卵を孵化させた個体から増やしてきたので、野生ライチョウが持っている腸内細菌を持っていません。

ライチョウが野外で高山植物を食べて生きていくには、この腸内細菌叢の獲得が必要です。

今年度は、人工孵卵、育雛を行う過程で野生型腸内細菌粉末と高山植物を与えて育て、腸内細菌の定着を目指しています。

② 照明時間のプログラムによる産卵時期のコントロールについて

ライチョウの羽の生え換わりは、日長時間(日の出、日の入の時間)の変化に影 響を受けていることが分かっています。また、羽の生え換わりは、繁殖生理と密接に関係しています。

今年度は、乗鞍岳の日長時間の周期を2週間ほど前に移行し、産卵の時期を早めることを目指していました。

今回の取り組みでは、野生下より2週間早く産卵を開始しています。しかし、産 卵時期については、その他の条件も関与することが考えられることから、引き続き知見を蓄積し、野生個体群との卵の交換のための産卵時期の調整に役立つ技術の確立を目指していきます。